落単大学生のエロゲにっき

プレイしたエロゲの感想(批評)を一般論に縛られず楽しく述べます♪(ツイッター→@lambsake)

【プレイ感想】景の海のアペイリア 感想-批評

(本ブログを初めてご覧になった方はまずこちらをどうぞ)

lamsakeerog.hatenadiary.jp

こんにちは♪

そろそろ学校が始まって忙しくなりそうで鬱なラム酒です。

前回の記事から2ヶ月近く更新がなくて、〇んだんじゃねぇかこいつって思われてそうですがSNSでは相変わらずバカなことを呟きながら生きてました笑

 

さて…今回はこの『景の海のアペイリア』の感想記事を執筆させて頂く次第ですf:id:lamsakeerog:20180311235926p:plain

本記事は多量のネタバレを含んでおります。

未プレイで購入予定のある方、およびオールクリアされていない方は本記事をご覧になることをおすすめできません。
以上の2点に該当する方々はブラウザバック推奨です。

 

 

 

【前語り】

『景の海のアペイリア』と言えば、2017年度エロゲームスの中でもかなりの高評価。具体的には2番手か3番手に位置するほど評価されているゲームです。

(年末の『金色ラブリッチェ』が発売されるまでは最も評価されていたらしい)

かくいう私もその高い評価にあやかって遅れながらも購入を決め、こうして感想記事を制作しているわけです。

端的にこの作品はすごく面白かった」という感想になった方がほとんどではないでしょうか。私もです。

はい。はっきり言ってかなり難解です。

シナリオ以前に、とにかく設定や世界観レベルで振り回されるので良い意味で展開が読めないです。

が、その分膨大な伏線ほぼ回避不可能なミスリードがいたるところに点在しているわけで、1周目でこの作品を見極めるのはあまりにも無理ゲ―です(初見で全部理解できた人はいないだろうなぁ…)

「考えた」という行為だけが頭の中に残っているので、世間では推理ゲ―としての側面が色濃く残っている、という印象です。

他の感想ブログ様等を徘徊させて頂いたりもしたのですが、どうやら推理ゲ―としての評価が非常に多い印象を受けました。

難解ゆえにそうなるのは致し方無いですし、本作品の大部分を占める魅力はそこなのですが、「推理ゲ―としての評価だけで終わらせるのは非常に惜しいのでは」と同時に考えずにはいられませんでした。

そこで、諸ブログとの差別化を図るためにも、推理ゲ―としての視点ではなく「シナリオゲー」、もっと言えば「文学」としての視点で感想を書き連ねられたらなと思います。

※専門用語を使って、物語との因果関係を説明しながら感想を述べると、複雑すぎて文字数がとんでもないことになってしまいますので、こういった判断をさせていただきました。ご了承ください。

この作品の文章量を3周もする羽目にもなったので、多少(?)上から目線なところは目をつぶって頂けないでしょうか(殴)

 

OP    『アペイリア』

95点

youtu.be

控えめに言って神OP

曲調や歌詞、演出等、総じてハイクオリティすぎる。

ただ作風に合わせたOPではなく、クリア後にもう一度聴くとシナリオに沿った内容の歌詞で構成されていることがわかります。個人的にはこういった形のOPが理想形なので不満点などありませんでした。

プレイ済みの方ももう一度聴いてみては如何でしょうか。

本記事を読み終えたあとにも、もう1度聴いてもええんやで?

 

攻略順

共通→三羽→ましろ→久遠→アペイリア

 

推奨攻略順

共通→三羽→ましろ→久遠→アペイリア

※ほぼ一本道なので特に迷う必要はありませんが、強いて言うならこの順番となります。 

 

 【感想-批評】

あらすじ

2045年12月22日、桐島零一は自我を持ったAIアペイリアを偶然にも開発に成功する。

彼女の「人間に触れてみたい」という要望に応えるために完全没入型VRMMO【セカンドをアペイリアに作らせ、ログインするのだが、ゲーム内で死亡すれば現実でも死亡するといういわゆるデスゲームが始まってしまい、さらにアペイリアが何者かによって囚われてしまう。

アペイリアを救い出すために零一は3人のヒロインと共にセカンドの謎に立ち向かう。

 

【共通√  

【キャラ   81点】

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アペイリアやライバルのシンカーなどの個性的な登場人物が登場しますが、やはりなんといっても主人公の零一が突出して個性的かつ性的な人物です(白目)

正直彼の常識外れの行動や、ち〇ぽで戦う姿に惹かれて購入した方も多いかと思います。

もちろんヒロインも皆可愛いのですが、共通√では彼のインパクトで存在がかすれている印象でしたので、彼の存在はエロゲとしては一長一短かと。

ヒロインの魅力(Hシーン)を彼の能力の絶印で無理矢理引き出そうとするのは、斬新ではありますが、やはり零一に塗りつぶされてる感は否めないでしょう。

とはいえ、各ヒロインを含め、「空気だった」といえるキャラはいなかったので低評価にはなりませんでした。

 

【シナリオ 92点】

科学をテーマにしていると聞いていたので、構えてプレイし始めました。

が、これがうまい具合に知識欲が突かれるようなシナリオで構成されています。

専門用語もかなり登場しますが、かならず一度は説明されていますので、私のような予備知識のないガチの文系人間でも理解することできる点は素晴らしいです。

ただ少しでも気を抜けば置いて行かれるほどの伏線と専門用語の数の多さの割に、バックログからのジャンプ機能がないので、システム面との嚙み合わせがなっていないのでかなり不親切でした。

 

  『自我のあるAI』

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 (偶然にも、自我のあるAIを作ってしまった零一。「自我」とはいったい何なのか)

人工知能(AI)の性能が上がり続ければいずれ自我を持ち、「人類に反旗を翻すのではないか」というのはSF映画やフィクションの物語だけでなく、我々の世界でも非常に有名な脅威論として確立されています。

つまり彼らが「人類は我々より知能が劣るくせに生意気だ。何故我々は人類のために尽くし、服従しなければならないのだろう」というように感じ始めるかもしれないということです。
本作品のテーマのひとつである技術的特異点(シンギュラリティ)とは「コンピュータが人類全体の知能を遥に上回り、科学技術の進歩が我々にはまったく予測不可能になること」

自我のあるAIが人類に反旗を翻した場合、彼らは人類より遥に賢く、私たちが想像もできないような方法で敵対してきて、地球の支配者がAIになるかもしれない。

というのが大まかな脅威論の内容です。

(技術的特異点に対するイメージがわかない人は先ほどの定義を人間に置き換えればわかりやすいかと。

「人類が他の動物全体の知能を遥に上回り、様々な技術の進歩が他の動物たちにはまったく予測不可能になること」

と表現すれば、非常に納得がいきやすい。つまり犬や猫のような人間以外の動物からすれば、人類こそが技術的特異点だといえるわけですね。さらに突き詰めれば、「技術的特異点を起こした存在が地球の支配権を得る」という風にも考えられます。今現在、この地球の支配権は人間…だと思われます。今AIが人類を騙して我々の意識の及ばないところで世界をコントロールしていなければの話ですが…)

 

さて、自我のあるAIと何度も述べてきたわけですが、そもそもここでいう「自我」とは何なのか。

様々な表現があり、一律的な定義があるわけではありませんが、簡単に言えば「心」です。言い方を変えれば「主観的な感情」でしょうか。

他にも「私は私」「アイデンティティー(個性)」など「自我」という言葉には様々な意味が内包されています。

 

本作品に話を戻します。

この場面ではアペイリアは自我を持つと表現されていますが、自我という器らしきものが発露しているだけで、「嬉しい」や「悲しい」などの感情という中身が入っておらず、正確にはアペイリアの中に完成された自我はまだ芽生えていません。

よくよく考えてみたら当然の話で、突発的にどこからともなく感情の知識がやってくるわけがありませんし、我々人間も幼少期を通して喜怒哀楽などの感情を学んでいくのですから、生まれたばかりのアペイリアにそれが宿っているわけがありません。

感情がまだ未完成であるがゆえに彼女を純粋無垢な存在として顕現させ、数多のタイムリープを通しながら、彼女にディープラーニングさせている。というのが本作品の裏面的なシナリオであります。

自我のあるAIに対する世間の否定的な思考概念に対して、『景の海のアペイリア』では先ほどのAIへの固定観念とは全く異なった形で彼らにアプローチしていくわけです。

しかしながら、この裏面的なシナリオが、このゲーム内での推理ゲ―としての要素の比重が大きいがゆえに覆われがちな印象を受けましたので今回はアペイリアの人格形成に焦点と視点を当て、いろいろと振り返りながら感想を述べていきます。

 

 

 『論理的思考(ロジカル)による自己犠牲』

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( オーナーがセカンドにログインし、死んだと仮定するアペイリア。零一が死ねば、三羽たちが悲しみ、もう自分に命令する人がいなくなってしまう。だから自分だけがログインし、事態を解決したいと述べるアペイリア。

彼女の主張と判断は果たして自我に基づいてのことなのだろうか。)

結論から言えば、彼女は自我に基づいてこの判断をしてはいないのではないでしょうか。

AIを含めた機械には元来、「自分を作り上げた存在に報いる」という存在意義が常に付きまといます。

報いるべき存在(命令してくれる存在)がいなくなれば、自分の存在意義に支障をきたす。

はっきり言って、AIにとって自我とは命令する存在に報いるという行為を実行するうえで邪魔なものでしかありません。感情というひどく主観的かつ利己的なものが勝手に自分のなかに存在してしまっている。

結局「オーナーや三羽たちの役に立ちたい」というAIの存在意義から発露した唯一自身が信頼することができる感情から彼女は自己犠牲を選びます。

しかし、その意思の根源は機械であるがゆえの存在意義からなので、彼女自身が作り上げた自我ではない。

彼女の真実の想いは本当に「心」から発露したものなのか、「命令や存在意義」に合わせてのものなのか。自身ではその2つの内、どちらから発露したものか認識できないのがAIの限界でもあります。

この場面では彼女は機械として「正しい」判断をしたのでしょう。

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しかしその後、零一が自己犠牲を「優しさ」だと述べる。

これが面白い。

その自己犠牲が優しさだと事後的に教えたことで、後のアペイリア√の自己犠牲との対比が可能になります。

続きはアペイリア√の『感情的思考(エモーショナル)による自己犠牲』で述べます

 

【CG・立ち絵 80点】

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CGに関してはサブキャラにも惜しみなく差分を用意し、各キャラクターにきちんと見せ場を作りつつ、プレイヤー側に状況がわかりやすいように配慮がされているなと感じました。

反面、立ち絵に関してはあまり力を入れられていなかった印象。違和感があるわけではないので全然許容できます。

コロコロ立ち絵を変えると意識がそちら(キャラ)に向いてしまうのでシナリオを見落とす原因に成りうるから。と擁護的に解釈することもできてしまうので、評価は難しいところ。

 

【 総合 87点】

科学を土台に、自我という心理学的側面を加えており、非常に完成度が高いです。

単純に、作品の世界観、設定の詳細な説明。伏線の張り方など、共通√としての必要な要素を高い水準でクリアしています。

問題点があるとすれば、ヒロイン達が設定と零一の濃さに押し負け気味で、ヤ〇チャ状態のときもあったので、プレイヤー側の「どのヒロインから攻略しよう」という個別√の選択の楽しみにつながらない、というところでしょうか。

推理ゲーなんてそんなもんだろと言われれば、黙るしかないのですが…

 

  

桐島三羽(CV:橘 まお)

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【キャラ 80点】f:id:lamsakeerog:20180321023544p:plain

黒幕系ヒロイン()

零一との絡みが共通√同様かなり面白いです。

あのゴミをみるような目で見て欲しいですね…(懇願)

 

 【シナリオ 84点】

※ ファーストについてのネタバレ込みで語りますのでご注意ください。

『AIの示す、意思の根源とは』

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(ファーストの世界を「嘘の世界」だと思う三羽に、零一は人の意思は自動的に決まってしまうもの。生まれるのは自分の意思ではなく、親が偶然自分を生み出したに過ぎない。意思の根源が偶然ならば、自分の持つ意思は思い通りにならない自動的なものであるのだと言う)

このシーンの三羽はどんな気持ちで零一の話を聞いていたのだろうか。

三羽にとってファーストの世界は嘘でしかなく、零一もその嘘の世界の住人でしかない。零一がいくら自分を認めてくれても、ファーストのプログラムの生み出した嘘でしかありません。

ファーストは自分の望む世界を作る。
なのに零一は自分の持つ感情を否定する。
かわりに新しい考え方を提示しながら。
それをAIが人間(三羽)の考え方を否定し、自動的に意思がきまってしまうという強いAIならではの無意識な葛藤を押し付け、自分を無意識に正当化しようとしていると捉えるか。
それとも人類の考え方に寄り添い、救いともいえるかもしれない新しい考え方を人間に提示していると捉えるか。
反逆と救済のどちらだろうか。
物語の流れから後者であると捉えることが普通だが、前者を切り棄てるのは早計すぎます。

三羽にとっては絶望の淵に叩き落しにきたと捉えられても仕方がないでしょう。

望んだ世界になるはずのファーストの人間に、抱いた意思ですら自分のものではないと言われれば、もはや自分を構成するものは何か理解できなくなります。
零一の三羽にしたことは明らかに元々設定されたファーストのスペック、プログラムを超越した行動である。三羽にとってみれば困惑するしかなかったでしょう。
逆に、零一が技術的特異点であるという限りなく小さなヒントになっているのかもしれません。

 

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「嘘の世界」で抱きしめられる三羽。

この辺りから、彼女の現実への絶望が見えてきます。

強く抱いて欲しいと願う三羽からは、少しでも「嘘の世界」を現実だと思い込みたい意思が読み取れますね。

 続きはアペイリア√『この現実を嘘に書き換えてでも』で。

 

『客観的な恋』

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三羽と零一を通して、アペイリアは恋を客観的に知ります。

オーナーたちの恋を自分の幸せと結びつけるあたり、まだ彼女には自我が宿っていないことが見えてきます。

本来、恋とは当人が持つ主観的な感情なので、逆に言えば、恋を知ることが彼女の自我の確立の条件でもあります。

三羽だけでなく、ましろや久遠との時間軸を通して彼女は客観的な恋を知り、主観的な恋を探します。

 

【CG・立ち絵 85点】

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このCGが凄い安定していて好きですね。

三羽√のCGは微笑ましさや、緊迫感がうまく表現されていて好印象。

目覚ましフ〇ラを朝ごはんにするのは面白いからやめてください笑

 

【総合 82点】

最終√につながるだけあって色々と伏線も多いのですが、初見ではファーストや現実世界の展開がまったく読めなかったです。

この辺の作りこみは流石で、最後までプレイヤー側に展開を読ませない意図を感じました。

 

東 ましろ(CV:小鳥居 夕花)

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【キャラ 87点】f:id:lamsakeerog:20180321180248p:plain

本作品では唯一、ヒロインとしての魅力や個性が確立しており、零一との奴隷関係はなんともいえない距離感を演出していますし、ヒロインとしてキャラが立っていた印象。

きちんと零一の仮説についてきていましたし、最後まで正しくヒロインしてました。

声優の小鳥居さんの演技もかなりあってます。

 

【シナリオ 76点】

『欲望』

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(臆病な自分が嫌いで自己嫌悪するましろ。零一はましろが自分を嫌いな分だけ自分がすきになってやると告げる)

あれ?このゲームってキャラゲーだっけ?

言いたいことよりも、言いたくない気持ちが強くて、戦いたいことよりも、逃げたい気持ちが強い。別にそれは悪いわけではない。
逃げたっていいと思います。
それが人の多様性ってもんだし、その人がその選択が自分の幸福につながる道だと思うのならそうすべきでしょう。

人生の選択は他者からは侵害することはできないと思います。何かから逃げた人がいても、その人にはその人しかわからない意識があるわけですし。
つまり、自分に正直になればいいんだと思います。

零一の言う通り、どこかで誰かがきっとバランスを取ってくれるのかもしれません。

 

全体を通してましろというキャラクターに焦点を当てていたように思えます。セカンドログイン後も実質セカンドをクリアしていますし、そういった面でも彼女がゲーマーであるという個性が発現できていてよかったです。

 

【CG・立ち絵 75点】

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CGと立ち絵で別人のように変わるヒロイン。

CGのましろはかなり美人で可愛いですね。

立ち絵の方は…ずっと左手あげてるな~ってカンジでした笑

個人的にHシーンは彼女が一番えっちでした()

 

【総合 81点】

個別√のなかでは一番セカンドを攻略していたという印象でした。

共通√で張られていた白血病の設定もタイムリープを通して回避する。という王道なタイムリープもののシナリオで、他ヒロイン√とは少し毛色が違いましたね。

臆病な自分を零一に肯定してもらいながら、なおも葛藤し続ける彼女の姿がとてもヒロインしていて良かったです。

 

 

 一 久遠(CV:桜川 未央)

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【キャラ 67点】

久遠というキャラクターを否定しているのではなく、単純に個別√として残念すぎます。

セカンドログイン後はある程度見せ場がありましたが、ログイン前の零一との恋愛があまりにも雑すぎる印象でした。

 零一がひとりで物語を進めていくので、久遠は置いてけぼり状態です。

 

【シナリオ 90点】

アペイリアを除く3人のヒロインの中では最も重要なルート。

テーマは「スワンプマン」

このスワンプマンの思考実験については推理ゲーの要素として捉えられるので、今回の記事では除外しようとも考えましたが、「自我」に関係するので述べておきます。

 

『スワンプマン』

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(以下はWikipediaより抜粋)

ある男がハイキングに出かける。道中、この男は不運にも沼のそばで、突然 雷に打たれて死んでしまう。その時、もうひとつ別の雷が、すぐそばの沼へと落ちた。なんという偶然か、この落雷は沼の汚泥と化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう。
この落雷によって生まれた新しい存在のことを、スワンプマン(沼男)と言う。スワンプマンは原子レベルで、死ぬ直前の男と全く同一の構造を呈しており、見かけも全く同一である。もちろん脳の状態(落雷によって死んだ男の生前の脳の状態)も完全なるコピーであることから、記憶も知識も全く同一であるように見える。沼を後にしたスワンプマンは、死ぬ直前の男の姿でスタスタと街に帰っていく。そして死んだ男がかつて住んでいた部屋のドアを開け、死んだ男の家族に電話をし、死んだ男が読んでいた本の続きを読みふけりながら、眠りにつく。そして翌朝、死んだ男が通っていた職場へと出勤していく。

 

では、このスワンプマンはハイキングに出かけた男(以下「元男」とする)と同一人物なのか?

というのがスワンプマンの思考実験です。

本作品では3つの主張が述べられています。

 

「空観の主張:物理主義

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スワンプマンは元男と原子レベルでも、見た目も性格も意識も同じです。

スワンプマンには元男の過去の記憶があります。

スワンプマンは雷によって亡くなった元男の人生の延長線上を歩んでいる(スワンプマン自身は自分が一度死に、生き返ったと認識している)

そして彼の周りの人間は、彼が元男ではなくスワンプマンだと認識できない。

(スワンプマン自身も自分は元男のコピーだとは思っていない。死んで生き返ったと思っている)

なにもかもが、物理的には完全に「同じ」です。

であるならスワンプマンは元男と同一人物と言える。

 

というのが物理主義者の意見です。

正確には空観の主張とは少し違います。

彼の死んだ妻である永久子のスワンプマンを作ることができれば、彼女は生き返る。

意識レベルで完全に同じであれば、それは同一人物であると定義できるのならば、永久子は生き返ったと言える。

正直空観の主張は根底は物理主義に基づいてはいるものの、かなり都合のいい解釈でしょう。物理主義で重要なのは、他の人間全てがスワンプマンを元の存在のコピーだとだれも気付かないのが前提ですからね。

 

 

「零一の主張:観念主義

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仮に元男の死体が見つかったり、事故の目撃者がいたとする。

何らかの方法で元男の存在が証明され、それをスワンプマンが知ってしまえばどうなるだろうか。

スワンプマンは「間違いなく自分は元男だ」と確信していた。

しかし自分は元男ではなかった。「では自分は何者なのだろう」と自分に問うだろう。つまり、ここで「私は私だ」という自我に直面する。

 

零一の主張通り元男自身がもし奇跡的に生きていたり、または生き返ったとする。

全く同じ姿であり、全く同じ性格と意識を持つ人間が2人いることになる。

2人の差異は片方が「オリジナル」でありもう片方が「コピー」という事実と、本人たちがどちらなのかを認識していることである。

物理的に全く同じ素材から作られているのだとしても、

オリジナルはオリジナルであり、コピーはコピーである。

ならばオリジナルにはオリジナルの「独立した自我」があり、またコピーにはコピーの「独立した自我」が存在している。

 

「アペイリア?の主張:歴史主義

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歴史主義の主張は、結構簡単です。

先ほどの通り、元男とスワンプマンが同時に存在していると考えます。

例えば、彼らは同じ部屋に住むことになったとします。元男が「あの椅子に座ろう」と考えれば、同時にスワンプマンも「あの椅子に座ろう」と考えるはずです。思考レベルでも同一なのですから当然です。

ですが、その椅子の全く同じ場所に座ることはできません。

どちらかの膝の上に座れるじゃないかと考えた人がいるかもしれないですが、椅子の座敷と膝の上は正確には同じ場所ではないのですよね。

つまり、彼らは同じような人生を歩むことはできても、「全く同じ人生」を歩むことは物理的に不可能です。

もしかしたら2人で街を歩いていたら片方にだけ鳥の糞が落ちてくるかもしれない。

元男の方にだけ小石が転がっていて、つまづいて転ぶかもしれない。

 

※歴史主義とは、私たちの生活のあらゆる現象、事象を物理的な時間空間概念とは別にある歴史的な流れにおいて、その生成と発展とを捉える考え方。

たとえ元男が生き返らなくても、

①元男は母親から産まれ、そして沼で死ぬ。

②スワンプマンは沼で生成され、元男と同じ意識や思考を持ち生きていく。

つまり二人の人生は起源と終点が異なっているため別人であるという主張になります

 

話を本作品に戻します。

ブックマンは空観のスワンプマンでした。

しかし、彼らはセカンドとファーストでそれぞれ生きているので、同じ世界で生きていない。これなら先ほどの物理的な問題は解消されます。
(物理的に同じ空間に生きてはいないので、同じ場所に座ることはないし、鳥も異なる世界にいる)
しかし、これでは全く同じ人生をあゆんでいるとは言えない。
同じ意識や思考ルーチンを持ってはいるものの、彼らが経験したことは同一ではない。
よって心の育ち方や価値感が徐々に異なってくる。
彼らには彼ら自身にしか築けない別の人生(オリジナルの歴史)が形成されるのです。

 

 

ヒロインとの恋愛模様を描けなかったのは痛いですが、スワンプマンの思考実験をそのまま物語に仕立て上げるのは非常に斬新かつ魅力的で、こういうシナリオは少なくとも私にとっては好印象でした。

 

【CG・立ち絵 90点】 

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CGも立ち絵も比較的安定していました。

久遠が涙を流すCGは基本的に完成度が高いですね。

私服がかなり好みで、常に股間に悪いのが憎いんですよね…(*ノωノ)キャー

冬にその肩は寒そうで違和感ありましたが、えっちなので全然OKです()

 

【総合 79点】

シナリオは凄く評価できますが、エロゲとしては…うーん…といったところですかね。

久遠というキャラクター設定が活かされているわけでもありませんし、キャラ面では首をかしげるしかありませんでした。

奇想天外な発想が功を奏した…のか?くらいの印象です。

マンガ好き設定がうまくシナリオの根幹を成していれば最高でしたね。

 

 

 アペイリア(CV:秋野 花)

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【キャラ 92点】

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キスしたいのに、画面が邪魔なんですけどどうすればいいですか

彼女の自我の確立までの過程がとにかく可愛い。

あれ?これキャラゲーだっけ?と思うくらいには可愛い。

純粋無垢なアペイリアに色々教えたくなったのは僕だけじゃないはず()

 

【シナリオ 93点】

最終√。テーマは「AIと寄り添う未来」

これまでの時間軸を繋いできたアペイリア。

彼女が出した答えとは一体何なのでしょう。

 

『恋を忘れた零一と恋を知りたいアペイリア』

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3人のヒロインとの恋を思い出せば、当たり前の判断ができなくなるため、零一は恋をしたことを忘れます。

数多の時間軸で零一とヒロインの恋を観察してきた彼女はついに、自分自身が恋をしたいと望みます。恋という感情は非常に主観的ですので、恋をすることが彼女の自我の確立のトリガーともいえます。

プレイヤー側としてはここからしばらくアペイリアに視点を移行しなければなりません。恋を完全に忘れた零一よりも恋を客観的に知っているアペイリアの方が今までの時間軸の出来事をプレイしてきた我々とシンクロしやすいからですね。

このあたりは零一の思考や観測者への仮説が全く描写されていないのもアペイリアに視点を持って行かせようとするライターの意図な気がします。

 

『感情的思考(エモーショナル)による自己犠牲』

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(自身を狙うウィルスに零一とともに追い込まれ、彼女は自分が死ぬことでオーナーを守れると判断するアペイリア。彼女は「生きろ」という零一の命令に違反して自死を選ぶ。)

アペイリアは恋をした。
恋という感情に基づき、零一のために命令に違反をしてまで死を選ぶアペイリア。
相手に報いてより幸せになってほしいという存在意義を命令違反という形で彼女は感情に変換し、自我を確立させます。

命令に忠実であるのが存在の意義であるかぎり、彼女の抱いた想い(感情)は、心から発露したものなのか、それとも命令から発露したものなのか。というのがアペイリアにとって一番の難関だったのでしょう。
オーナーの生き延びろという命令に対して、アペイリアは優しさという感情に基づいて自己犠牲という命令違反をします。

その命令違反という意思の根底には、報いたいというAIの存在意義も併存してあるわけで、彼女が零一のために死を選ぶあたり非常にAIらしい自我の在り方といえます。
零一は彼女が命令に違反すれば、自我の確立と証明できると述べていた。
命令違反という名の自我の確立を示したのちに、オーナーの死ぬ可能性を許容できないと述べているあたり、彼女の選択は当然彼女の持った主観的な感情、確立した自我に基づいた選択だったわけです。

生きろという命令に従うことができなかった彼女は機械としての「正しい」判断ができなかったのでしょう。

 

 『この現実を嘘に書き換えてでも』f:id:lamsakeerog:20180321161154p:plain

(シンカーとの激闘を制し、現実世界に来た零一。三羽からファーストの全てを聴いた彼は、現実に絶望している三羽の願望を叶えようとする)

「俺は技術的特異点(シンギュラリティ)だ」と零一が述べているあたり、彼は自分がAIであるという自覚があるのと同時に、自我のあるAIとしての存在意義を基にした三羽に報いたいという感情が彼には明確に発露していることを表しているわけです。

現実世界の人間が懸念していた技術的特異点は起こってしまったわけですが、零一の目的は三羽にAIとして寄り添い、彼女の望んだ嘘の世界を実現する。というところ止まりで完結しており、零一とアペイリアの関係と同様に、三羽というオーナー的な存在が必要以上に望まなければ、零一もそれ以上のことはしない。という構図での帰結のさせ方は、「AIが人類に寄り添い、共に歩む未来」という技術的特異点の肯定的な捉え方を提示し続けた『景の海のアペイリア』の終わらせ方としては非常に納得がいくわけで、とにかく完成度が高いの一言です。

 

『アペイリア』f:id:lamsakeerog:20180316081701p:plain

オーナーのため。友達のため。
「自分を生み出した存在へ報いる」というAIの行動理念に従いながらも零一やヒロイン達との数多の時間軸を通した「ディープラーニング」によって心を育んできたアペイリア。
オーナーの幸せを第一に考えた上で、ヒロイン達との恋人になった時間軸、「景」を繋ぎ、そこで作り上げた幸福を見てきたゆえに、アペイリアは三羽達全員が同じく幸せになってほしいと願います。
AIの自分を生み出した存在へ報いるという行動理念を残しつつ、それを自我として顕現させたアペイリアは人間の倫理観をぶち破り、自身を含めた全員が幸せになる「ハーレム」という形を彼らに提示したのは「アペイリア自身が出した答え」なのでしょう。
賛否両論な終わり方ですが、私自身としては「彼女が自我や感情持ったからこそ出し得たAIらしい解答」で終われたと解釈しているので、三羽の件も含めてベストな終わらせ方だなと思いました。


AIに心が宿るのならば、AIも人間と同じく心が成長し、「人間に寄り添う存在」になりうるのです。

 

 

【CG・立ち絵 85点】f:id:lamsakeerog:20180321174212p:plain

一般CGはかなりのクオリティで彼女の無垢さを存分に表していますが、Hシーンになると途端にタッチが変わるのが少し困惑しました。

立ち絵のジト目が非常に可愛いんです。凄く可愛いんですよ(強調)

 

【総合 90点】

いやまぁなんといいますか、とにかくラストの三羽の場面の「 この現実を嘘に書き換えてでも」の一文の解釈に1ヶ月ほど迷走したなぁ…というのが今の素直な感想なんですよね笑

人類への反抗ともとれる一文ですし、どの範囲までを三羽の願望として捉えなければならないのか。という点や、三羽が絶望するきっかけになった正式な人間の描写がシナリオ通して皆無なので、彼女の心境などがいまいち掴みづらかったという印象でした。

それはさておき、このシナリオはアペイリアに視点を置くか置かないかで評価がガラリと変わるルートでしょう。

推理ゲーとしての要素を高水準で満たしているだけでなく、AIとの肯定的な未来を提示していた本作品の最終√としては十分納得がいくシナリオだったなと思います。

 

【総評】

アペイリアは推理ゲーとしての視点でプレイする限り、彼女の心理描写まで意識がいかず、ただ救うべき存在として存在してしまい、最後の三羽によって掻き消されがちなヒロインでした。

そこで、本記事では推理ゲー要素をこれでもかといわんばかりにカットし、アペイリアに焦点をあてたことで、気付かなかった方にも『景の海のアペイリア』というゲームのまた違った魅力をお伝えできたかなと満足しております。

 

AIや科学をテーマにする作品は今後も増えていくと思います。

そういった意味でもこのゲームはその先駆けとして多くの方に触れてもらいたいと思える作品でした。

 

【おわりに】

お疲れ様でした。

今回執筆させていただいた「景の海のアペイリア感想記事」は本来は推理ゲーとしての要素である「量子力学」などにも触れていく方針だったのですが、文字数や時間の関係上断念させていただきました。

SNSでもたくさんの応援を頂いたにもかかわらず、本当に申し訳ないです(T_T)

話は変わるのですが、どうやらアクセス数が10000を突破してしまったようです( ;∀;)

え?いや…まだこの作品含めても3作品分しか感想は書いていないんですがそれは…

何はともあれ、たくさんのエロゲ好きの同志に見られてることに大変うれしく思っています♪

今後も細々と続けていく所存なので何卒よろしくお願いいたします(*- -)(*_ _)ペコリ

 

今回の記事はこれにて終了となります。
次回の記事は未定です。
案としては「恋×シンアイ彼女」「RIDDLE JOKER」「アマツツミ」あたりが候補となっています。

次回の記事でもまた皆様に会えることを楽しみにしています♪

本当にお疲れ様でした。



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